旅行業・観光業で成功するためには「おもてなし」など様々なものが求められます。

そのうちのひとつである「ブランディング」に欠かせないのが、ネーミングやロゴですよね。

こういったネーミング・ロゴを模倣やパクリから守るためには、商標に関する知識が必要です。

今回は旅行業・観光業の人が知っておきたい商標知識について、解説をします。

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【基礎知識】商標とは

商標とは、簡単に言うと商品やサービスに付ける名前・マークのこと。そして、こういった名前やマークを独占的に使用する権利が商標権です。

商標権は、権利で守りたい名前やマーク(商標)×商標を使う商品・サービスの分野(区分)の組み合わせを特許庁に申請し、審査に合格することで権利化できます。

商標権を取るメリット

商標権を取るメリットは「パクリ防止」と「差止請求によるネーミング変更の予防」によるブランド保護です。

少し詳しく解説しましょう。

商標権は、出願した人に申請した名前・マークの独占的使用を認める権利です。名前・マークを真似された際にはパクリ商標の使用を止めさせることができるので、商標権を取ると模倣防止になるのです。

そして日本の商標制度は、先に出願した人に対して権利を認める「先願主義」を採用しています。つまりは早いもの勝ち制度です。

なので他人に自社ブランドの名前・マークを横取りされたり、名前・マークが被ってる他社に先を越されたりすることがあります。もしも権利保持者が商標の使用を止めるよう求めてきたら(差止請求)、あなたはネーミング変更をしなくてはいけません。

そうすると、せっかく作り上げてきたブランドを、一からやり直すことになり、大きな損失となります。

観光タクシー「うどんタクシー」の商標を巡る訴訟

意外かも商標問題は旅行業・観光業にも関係のある話題です。

最近の例だと、2020年に香川県琴平町の琴平バスが高松市の空港タクシーを「うどんタクシー」の商標権侵害で訴えました。この一件は2020年に訴訟が始まり、2021年に和解にて裁判が終わっています。

また過去には「サクラホテル」という商標にまつわる訴訟も起きています。

このように、商標をめぐるトラブルは業界を問わず起きるのです。

実際に商標権を取っている旅行業・観光業の例

ホテル・旅館

◎星野リゾート

有名ホテル・星野リゾートは80を超える商標を登録しており、「石の教会」「星のや」など様々なネーミング・ロゴを保護しています。

商願2014-99063(登録区分:第43類)

引用:J-PlatPat

詳しくはのちほど解説しますが、商標登録をするときは「区分」というサービス分類を指定します。

第43類は宿泊施設に関する区分なので、王道の権利取得をしていることが分かりますね。

◎加賀屋

石川県和倉温泉にある、超有名旅館の「加賀屋」もロゴを商標権でしっかり守っています。

登録3109807(登録区分:第42類)

引用:J-PlatPat

旅館の加賀屋が第43類で取っていないことが不思議かもしれませんが、これは平成4年3月31日までに出願された商標は旧商品区分という古いルールに基づいて権利化されているからです。

旧商品区分で第42類は、宿泊施設に関する区分となっています。

◎料理旅宿 井筒安

商標は小さな旅館・ホテルにも関わってくる話です。

こちらの井筒安さんは天保10年創業の京都にある老舗旅館。非常に歴史あるお宿ですが、部屋数で言えば8部屋という、小さな規模で運営されています。

商願2021-123115(登録区分:第43類)

引用:J-PlatPat

旅行会社

赤い風船(日本旅行)

日本旅行がプロデュースする日本旅行の国内旅行ブランド「赤い風船」。こういったシリーズ名などでも商標登録は可能です。

赤い風船も、星野リゾートのように複数の商標・複数の区分で網羅的に保護をしています。

商願2005-021032(登録区分:第39類、第43類)、商願2006-057462(登録区分:第36類、第41類)

引用:J-PlatPat

南海国際旅行

団体旅行ナビにも参加されている南海国際旅行さんは、社名で合計3区分の商標を取っています。

ちなみに、3区分×1商標ではなく1区分×3商標で権利化しているのは、いくつか理由が考えられます。

まず考えられるのは、商標登録の費用は区分数に比例する特性から、必要になったタイミングで区分を都度追加することで、最低限のコストで保護する手法。ほかにも1区分ずつで出願すると、万が一3出願のうちどれかで拒絶の審査結果をもらっても、他の出願は権利化できるというメリットがあります。

今回の場合、3つとも出願日が同じなので、確実に権利化できる区分を素早く権利化する手法を取ったと考えられます。

温泉地

意外かもしれませんが、「有馬温泉」「城崎温泉」といった温泉地の名称も商標で保護できます。

箱根温泉

神奈川県が誇る温泉地・箱根。ここに広がる温泉は、まず箱根温泉旅館ホテル協同組合が「箱根強羅温泉」という名称を権利化しています。登録区分としては第43類(宿泊施設関係)と第44類(温泉施設関係)の2つが該当します。

そして特徴的な点として、箱根温泉供給株式会社が「大涌谷温泉」という名称を出願している部分があるでしょう。

この会社は大涌谷一帯に安定した温泉を供給するために設立され、仙石原や強羅に温泉を送っています。そのため「箱根強羅温泉」とは違って、第39類(水の供給、観光業、ツアー企画関係)での権利化を目指しています。

草津温泉

草津温泉といえば、湯もみショーがとっても有名ですよね!この湯もみに関するキャラクター「ゆもみちゃん」「ゆもみくん」を一般社団法人草津温泉観光協会が権利化しています。

商願2001-056859(登録区分:第42類)、商願2005-056944(登録区分:第16類)

引用:J-PlatPat

商願2013-5842(登録区分:第39類)

引用:J-PlatPat

ほかにも草津温泉旅館協同組合によって「草津温泉」「泉質主義」といった単語が保護されています。

草津は温泉が目玉の観光地ですから、しっかり権利保護して草津ブランドを作り上げているんですね!

Webサイト・ガイドブック類

◎るるぶ

まずは超有名ガイドブック「るるぶ」をチェック!るるぶは複数商標を取得しているので、今回はロゴに絞って紹介をします。

商願2007-042423(登録区分:第16類)、商願2007-074829(登録区分:第16類、第18類)、商願2019-001952(登録区分:第3類)

引用:J-PlatPat

このなかで情報発信に関わるのは第16類。ここで印刷物(つまり紙のるるぶ)の権利を取得していました。

◎るるぶ&more.

るるぶ&more.は、女性の日常に寄り添うおでかけ情報Webメディア。webサイトがベースなので、紙のるるぶとはガラッと変わった商標の取り方をしています。

商願2017-161140(登録区分:第9類、第16類、第35類、第36類、第38類、第39類、第41類、第42類、第43類、第44類、第45類)

引用:J-PlatPat

各区分でしている内容はこちらの通り。女性の日常に寄り添うおでかけ情報Webメディア、という特性上多岐に渡るジャンルを取り上げる関係で、たくさんの区分を押さえる方針としていることが伺えます。

  • 第9類…電子出版物(DLする出版物)、アプリなど
  • 第16類…印刷物、カタログ、紙製品類など
  • 第35類…広告業関係、小売業関係
  • 第36類…金融や保険、不動産の情報提供など
  • 第38類…通信プラットフォーム(例:SNS、掲示板)関係
  • 第39類…輸送(鉄道ほか)関係の情報提供、企画旅行、旅行観光についての情報提供など
  • 第41類…文化施設(博物館ほか)関係の情報提供など
  • 第42類…ソフトウェア(webアプリ)関係
  • 第43類…宿泊施設についての情報提供など
  • 第44類…美容関係の情報提供など
  • 第45類…ファッション関係の情報提供など

◎トリップアドバイザー

ホテルや観光地の口コミが集まっているトリップアドバイザー。webサイトだけで完結しているサービスは、いったいどんな風に商標を取っているのか、紹介していきます。

商願2008-038797(登録区分:第38類、第39類、第42類、第43類)

引用:J-PlatPat

ほかにもフクロウのマークがないバージョン、社名が日本語表記バージョンといった、別デザインのロゴも商標登録されていました。

トリップアドバイザーは口コミ投稿サイト&予約サイトという機能をもったサービスなので、「投稿機能」「旅行や宿の情報」に関係する区分で権利を押さえています。

  • 第38類…メッセージ送信関係
  • 第39類…旅行観光についての情報提供
  • 第42類…ソフトウェア(webアプリ)関係
  • 第43類…宿泊施設についての情報提供

◎一休.com

高級宿・高級レストランの予約をするときに大活躍してくれるOTA・一休.com。トリップアドバイザー同様webだけで完結するサービスですが、一休.comは予約がメイン機能で口コミはいわばおまけなので、権利の取り方も少し違いがあります。

商願2010-043628(登録区分:第35類、第39類、第43類)、商願2018-040024(登録区分:第39類、第44類)

引用:J-PlatPat

一休.comだけが取っている区分は第35類(広告関係)と第44類(温泉、美容関係)が当てはまります。

それからもうひとつ特徴的なのが、商願2010-043628でも商願2018-040024でも第39類を指定していることです。

これは、区分と一緒に指定する「指定役務」が関係しています。指定役務とは商品やサービスそのものを指し、商標権の有効範囲を決める役割を持っています。なので商標登録した後に指定役務を増やしたい=権利範囲を広くしたいときも出てくるのですが、登録済みの商標に指定役務を追加することはできない決まりとなっています。

ですから権利範囲を広くするために、2つの商標で第39類を指定している、というわけなのです。

旅行業・観光業は商標出願するべき?

ネーミング被りやパクリ防止のためにも、旅行業・観光業の人も商標登録をしておくのが安心です。とはいえ権利化・権利維持には相応のお金がかかるので、出願するべきかどうか悩んだら一度プロ(弁理士)に相談しておきましょう。

商標出願にかかる費用

商標出願に必要な金額は、自分で出願をするなら3万円~、プロに代行してもらうなら14万円~が相場となります。

自力で出願するのはとても安価ですが、120%の効果を発揮してくれる権利を取るには専門知識が必要です。出願の手間や権利の強さなども踏まえて、トータルのコスパを考えると後悔しづらいでしょう。

なお商標出願にかかる費用は、取得する区分数に応じて高くなります。

商標登録の費用をかんたん解説!【知財タイムズ】

権利化までの流れ・時間

商標権を取るまでのステップは、大きく4段階に分けられます。

  1. 他人の商標を検索・調査する
  2. 出願書類を特許庁に提出する
  3. 審査結果に対応する
  4. 権利維持費用を納付する

権利化までにかかる時間は、2023年現在で平均9.6ヶ月です。出願してから権利化まで10ヶ月も必要と聞くと非常に長く感じると思いますが、これは商標出願の件数が近年増加していることが関係しています。

ちなみに一定の条件を満たせば早期審査という制度が使えて、権利化までの時間を6ヶ月程短縮できます。

参考:特許行政年次報告書2022年版

商標は自分で出願できる?

結論から言うと、商標登録は自力でも行えますが、区分選びを間違えると権利を取った意味が薄れてしまいます。

商標の区分とは?

商標の区分とは、特許庁が定めた商品やサービスの分類カテゴリーのこと。

区分は全部で45種類に分けられており、第1類は消火剤のような化学品、第2類はインクといった塗料、のように分類が決まっています。

さきほども紹介したように、商標登録をするときは商標(名前・ロゴ)と区分をセットで申請する必要があります。

指定役務とは

また区分のほかに、指定役務というものもセットにして申請します。

指定役務とは、商品やサービスそのものの事を指します。そして指定役務は、商標権の有効範囲を決める役割を持っています。

例えば「にっぽんトラベル茶」という飲料の商標を取るとします。そうすると区分は「第30類 コーヒー、茶、穀物の加工品などの加工した植物性の食品、調味料など」が候補になります。指定役務も「茶」が無難です。

こんな風に商標出願をすると「にっぽんトラベル茶」というお茶飲料だけに権利が発生します。第30類にあるほかの指定役務、具体的にはアイスクリームなど、には権利が発生しないので、もしも「にっぽんトラベル茶」というアイスが発売されたとしても権利の範囲外になり、侵害として訴えることはできません。

旅行業・観光業が出願するなら、区分はなにを選べばいい?

一般的には第39類(輸送、保管、旅行の手配が該当)と第43類(宿泊サービス、飲食サービスが該当)が選ばれます。

【どんなサービスが当てはまる?具体例】

  • 第39類…車両による輸送(貸切バスなど)、レンタサイクル、企画旅行の実施など
  • 第43類…ホテルの運営、ホテルの予約サービスなど

つまり旅行会社なら39類と43類、ホテル・旅館は43類、バス会社なら39類が有力候補になるというわけです。

さきほど紹介した例でも、第39類や第43類を選んでいる旅行業・観光業企業は多かったですね。

商標出願は弁理士に任せるべき理由

ここまで商標登録の制度を解説してきましたが、読んでいて「面倒だな」「分かりづらいな」「じゃあ自社の場合はどっちがいいんだ…?」など感じた部分があるのではないでしょうか。

商標登録は微妙な判断を求められる場面も多く、付け焼き刃の知識では対応しきれないことも珍しくありません。

もしも商標登録をしようと考えている人は、商標をはじめとする知的財産の専門家・弁理士に相談するのがおすすめです!

専門家ならではの経験と知識で、しっかりサポートをしてくれるでしょう。

>「知財タイムズ」で弁理士を探す

まとめ

自社ブランドを守るために必要な「商標」について解説していきましたが、いかがでしたか?

知的財産はとっつきにくい部分も多いですが、上手に活用すれば自社サービスをより盛り上げてくれる、心強い味方となります。特に商標は、どんな業界やどんなサービス提供者も関係がある重要なツールです。

権利化にかかる期間のところでも触れましたが、知的財産に関する重要度や企業の関心は高まり続けています。

その流れを受け、知財業界(特許事務所、企業知財部など)でも「業界未経験可」の求人募集が増えてきているところ。

もし知財の世界について興味が湧いたという方は、ぜひ知財HRもご覧ください!